REGENERATIVE MEDICINE
INTRODUCTION
はじめに
医学の発展は目覚しいものがありますが、従来は失われた臓器や組織は回復が難しいものがありました。よくトカゲのしっぽは再生するという話はよく知られていますが、多くの高等動物では、一度失った部位が元通りに再生することは期待できません。
現実には、どこか別の部位や他の人の臓器や組織を犠牲にして(ドナーといいます)、病変に移す手術である移植治療が唯一の解決方法でした。整形外科領域では、骨・軟骨移植や足趾移植が、形成外科領域では、筋皮弁術や植皮術がその役割を担ってきました。
しかし、近年は傷が治る過程である「創傷治癒」の仕組みと細胞の加工技術や培養技術が目覚しく進み、ドナーの犠牲を最小限にするかまたは無くして、このような夢の治療法を叶える時代が近づいてきています。
再生治療の特徴の一つは、臨床応用が進むと大きな病院でではなく身近なクリニックでも治療を受けられるようになってきます。従来の移植手術であれば、大掛かりで安全性も確保された大病院でないと治療は難しいものばかりです。しかし、再生治療はわずかな量の組織や細胞を採取して、必要な処理や培養技術を施した後に、体内に戻す治療法ですので、身近なクリニックでもその先端技術の恩恵を受けることができるのです。
近年では、このように血液由来製剤や細胞治療を使う比較的侵襲の少ない再生医療を、バイオロジックヒーリング(biologic healing)またはバイオセラピー(biotherapy)とも言います。
使用する製剤の特性、細胞加工の程度、投与方法等により第二種・第三種再生医療技術と定義されており、それに応じた再生医療等提供計画を各医療機関は提出・受理されて実施しています。
実は予防医療・抗加齢(アンチエイジング)医療でもある再生医療
健康に過ごしているつもりでも、病気は静かに進んで、症状が気になって病院を訪れるときには、病状が進んでいたということが多くあります。
整形外科疾患であれば、明らかにケガが原因の場合を除いて、日々の仕事や生活習慣の影響で腰、膝や股関節などがストレスを少しずつ積み重ねていることが考えられます。たいていは、消炎鎮痛剤の処方と注射治療やリハビリテーション療法が適応となり、ある一定以上の病状となると、手術治療を進められます。
しかし、消炎鎮痛剤の処方も注射治療もリハビリテーション療法の何れもストレスが加わってダメージを受けた組織(軟骨、靱帯や関節包)を復活させる治療法ではないので、同じ仕事や生活習慣を継続している限り、病状の進行にブレーキをかけることはできません。
一方、再生医療は、ダメージを受けた組織(軟骨、靱帯や関節包)に働きかけて、修復や再生を促す治療ですので、奏功すれば病状はブレーキをかける、あるいは一旦初期に回復することが期待できます。ひいては、最終的な手術治療を回避または遅らせることが可能になります。それゆえ、予防治療ともみなせます。また、痛む関節の部位に関して、老化現象を止めるまたは若返らせる治療とも捉えることができ、抗加齢(アンチエイジング)治療とも言えるでしょう。
さまざまな再生治療
01.血液を利用した方法
自己の血液から、遠心分離法で特定の細胞成分あるいは細胞が放出する物質(成長因子や抗炎症性サイトカイン)を多く含む層を抽出してから、病変部に注入する方法です。多血小板血漿(PRP:platelet rich plasma)療法と呼ばれ、遠心分離法や処理法にも多くの方法があり、採血と同時に注射できる方法や、凍結乾燥加工したものを後日注射する方法もあります。
02.軟骨を利用した方法
自己の軟骨を採取して、病変部に移植する方法で、軟骨移植治療といいます。平成23年に一部の大学病院で膝関節軟骨欠損に対して、自己の細胞から作製した軟骨細胞シートを移植する臨床研究が開始されています。
03.培養液を利用した方法
実際には、幹細胞を使用するので次の幹細胞の分類にはなりますが、使用するのは幹細胞を培養する際にシャーレに存在する幹細胞培養液の上澄み液であり、この治療法を一般に幹細胞培養上清液注射といいます。幹細胞としては、抜歯をする智歯(親知らず)や乳歯歯髄、骨髄の幹細胞などです。
04.幹細胞を利用した方法
幹細胞とは、細胞の中でも自己複製能(増殖する力)と多分化能(いろいろなタイプの細胞に成る力)を持った特殊な細胞です。自分自身の幹細胞や他者の幹細胞を採取又は作成して、基本的に細胞培養で増やした後に多数の細胞を病変部に移植する方法です。
01滑膜幹細胞治療
滑膜は腱や靱帯を覆う組織で関節近傍にあります。この滑膜の幹細胞には、軟骨の保護や炎症を抑える作用があります。平成29年8月に一部の大学病院で半月板損傷を対象とした臨床治験が開始されています。
02脂肪幹細胞治療
自己の脂肪組織内にある幹細胞(正確には間葉系幹細胞)を採取して、そのまままたは培養後に関節腔内に注入する方法です。培養を用いる方法では、少量(約20mL)の脂肪採取ですみ、約3週間かけて細胞培養をしたのち、凍結保存します。移植(注射)日に幹細胞を急速解凍して、関節腔内注射します。
03骨髄幹細胞治療
骨にはその内部に血液を作る働きのある骨髄組織が存在します。自己の骨髄内にある幹細胞を採取して、間葉系細胞に分化・培養させた後に関節腔内に注入する方法です。前述の脂肪よりも良質な幹細胞が取れるといわれています。
04iPS細胞治療
ヒトの体細胞から作成した多能性幹細胞を軟骨・骨系細胞に分化させてから移植する方法です。令和元年11月に京都大学医学部附属病院において、ヒトiPS細胞からiPS細胞由来軟骨を作製し、膝関節軟骨損傷を治す臨床研究の再生医療等提供計画が厚生科学審議会にて認められた段階です。整形外科領域では、脊髄損傷麻痺の方の脊髄神経再生にも期待がかけられています。
当院での取り組み
当院では平成30年より整形外科外来を開設し、さまざまな整形外科疾患ニーズに応えて参りました。平成31年より従来の保険診療のみではカバーできない治療ニーズに対応するべく、バイオセラピー(再生医療)を導入しています。
特に変形性膝関節症に関しては、ここ数年の再生治療の治療成績が短期ではありますが発表され始めており、当院医師が最新知見を元に安全性と治療成績を検討して、先端治療技術を採用しております。
現在(令和〇年〇月時点)当院で採用している再生医療は以下の通りです。
- 多血小板血漿(platelet rich plasma: PRP)